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中小企業の不動産投資
中小企業のオーナーは、不動産投資を見当する場合、個人で投資するか法人で投資するか選択肢があると思います。
どちらで投資する方が良いかはその会社・社長ご自身の状況によって異なってまいります。
色々な観点から個人と法人は比較して明示していきますので、投資判断の一助となればと思います。
所得の考え方の違い
・個人
個人の所得税の場合、その性格によって所得を下記の10種類に区分されます。
- ①利子所得
- ②配当所得
- ③不動産所得
- ④事業所得
- ⑤給与所得
- ⑥退職所得
- ⑦山林所得
- ⑧譲渡所得
- ⑨一時所得
- ⑩雑所得
それぞれの所得ごとに所得の計算をしていきますが、不動産投資の場合、③の不動産所得に該当し、下記の方法により所得を計算していきます。
不動産所得:総収入金額 △ 必要経費(△青色申告特別控除)
・法人
法人の場合、所得計算は下記のように計算していきます。
全ての益金 △ 全ての損金
つまり、個人と違い法人の場合、所得区分はありません。
不動産のマイナスの取り扱い
・個人
不動産所得がマイナスとなった場合には、他の所得と損益通算することができます。
つまり、給与所得など他の所得があるとそちらの所得と損益通算することで所得税を少なくまたは還付を受けることができます。
ただし、マイナスとなった金額のうち、土地負債利子の部分については、損益通算することはできません。
・法人
法人は全ての益金から損金を差し引いて利益を計算していくため、不動産のマイナスは本業の利益から差し引くことができます。
つまり、土地負債利子の部分も相殺することができます。
※土地負債利子とは、不動産購入時の借入に対する利息のうち、土地の取得に要した借入に対する利息部分をいう。
税率の違い
・個人
個人の不動産所得は総合課税となり、所得税と住民税が課税されます。所得税と住民税を合わせた税率は下記の通りなります。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 15.315% | 0円 |
195万円超330万円以下 | 20.21% | 97,500円 |
330万円超695万円以下 | 30.42% | 427,500円 |
695万円超900万円以下 | 33.483% | 636,000円 |
900万円超1,800万円以下 | 43.693% | 1,536,000円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 50.84% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 55.945% | 4,796,000円 |
法人
法人の場合(東京都)、法人の所得は法人税・地方法人税・法人都民税・法人事業税が課税されます。それぞれの税率は下記の通りとなります。
・法人税
資本金1億円以下の法人 | 年800万円以下の部分 | 15% |
資本金1億円以下の法人 | 年800万円超の部分 | 23.2% |
上記以外の法人 | 23.2% |
・地方法人税:10.3%
・法人都民税
・法人税割:法人税額 × 税率(標準税率7.0%)
・均等割:70,000円~
・法人事業税
・所得割
事業税の区分 | 標準税率 | 超過税率 |
年400万円以下 | 3.5% | 3.75% |
年400万円超800万円以下 | 5.3% | 5.665% |
年800万円超 | 7.0% | 7.48% |
・特別法人税:法人事業税所得割 × 37%
上記の税率を踏まえた法人の実効税率は下記の通りとなります。
所得金額 | 税率 |
400万円以下 | 約21.366% |
400万円超800万円以下 | 約23.173% |
800万円超(法人税額1,000万円以下) | 約33.583% |
不動産を売却した場合
・個人
個人が不動産を売却した場合、分離課税となり、短期譲渡と長期譲渡分けて、下記の通り、所得税・住民税を計算していきます
・短期譲渡(5年以下)
{譲渡価額 △ (取得費+譲渡経費)} × 39.63%
・長期譲渡(5年超)
{譲渡価額 △ (取得費+譲渡経費)} × 20.315%
・法人
法人は全ての益金から損金を差し引いて利益を計算していくため、不動産売却の損益を含めた全ての利益に対して前述の税率により計算されます。
不動産がマイナスの繰越
・個人
青色申告の場合、欠損金は3年間繰り越すことができます。
・法人
青色申告の場合、欠損金は10年間繰り越すことができます。
相続財産の評価
・個人
個人が不動産を所有した場合の相続財産の評価はそれぞれ下記の通り評価していきます。
土地 :路線価を基に評価
建物 :固定資産税評価額を基に評価
借入金:借入金残高を債務控除
つまり、土地・建物は路線価・固定資産税評価額で評価しますので、実際の価額より低い価額で評価額が出てまいります。また、借入金は債務控除として、マイナスの財産として計算していきますので、不動産を購入することで全体の財産額を低く抑えることができます。
・法人
法人が不動産を所有した場合、法人の財産ですので、個人の財産には直接影響は出てまいりません。ただし、個人は法人の株式を所有していますので、法人の株価に影響が出てまいります。
非上場株式の評価は下記の方法により評価していきます。
- ①類似業種比準価額方式
- ②純資産価額方式
- ③配当還元方式
中小企業のオーナーの場合、①・②またはそれらの併用方式により計算していきます。
不動産を購入した場合には、主に②の純資産価額方式で計算した場合に影響が出てまいります。
法人の資産負債を相続税評価額で評価して、純資産を計算していきますので、個人と同様に土地は路線価を基に評価し、建物は固定新税評価額を基に評価していきますので、純資産価額を小さくすることが可能です。
ただし、3年以内に取得した土地・建物は取得費での評価になってしまいますので、注意が必要です。
中小企業の不動産投資の検討
不動産投資を行う場合、購入した年は経費が多く、不動産の利益がマイナスになる傾向があります。
そのマイナスを利用して、個人の所得を減らしたり、法人の利益を少なくすることができますので、一時的に個人の所得が高い方は個人で購入し、一時的に法人の利益が多くなる方は法人で購入すると単年の納税負担を抑えることができます。
ただし、個人の不動産所得は土地負債利子部分が損益通算できませんので、その点に注意が必要です。
不動産を所有していくと毎年、一定の所得が発生します。所得税の税率は累進課税ですので、元々、個人の所得が高い方は法人で所有した方が税率を低く抑えることができます。
不動産を売却した場合の税金ですが、短い期間所有した不動産を売却すると個人の所得税・住民税は高い税率で課税されてしまいますが、法人の場合、一定の税率ですので、短期で売買をお考えの方は法人所有の方が有利となります。逆に長い期間所有した不動産を売却すると個人の所得税・住民税は低い税率で課税されますので、個人所有の方が有利となります。
相続税を考えると個人で所有の場合、不動産の評価は実際の取得より低い価額で評価されますので、近い将来の相続を考えると個人で所有した方が有利になります。
法人の事業承継を考える場合、法人で不動産を所有すると株価を低く抑えることができますので、非上場株式の相続・贈与を考えると将来的に有利に働くことができます。
それぞれ色々な論点がありますので、ご自身の状況に合わせて、何に重点を置いていくかを考えながら検討していくことがよろしいかと思います。
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