発行 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
編集 DREAMJOB Innovation Lab
コラム読者の皆様こんにちは!
内山会計の内山でございます。
この記事では建設・土木業の方へ向けて、税理士・会計士としての立場から、専門的な知識・情報をわかりやすく解説してまいります。
建設・土木業では一般的な小売店や飲食店と異なり、専門的な会計が導入されています。
代表的なものとして『工事完成基準』『工事進行基準』という会計基準がありますが、他業種から転職された方や、これから建設業を立ち上げる方にとってはあまり馴染みのないものかもしれません。
そこで今回のコラムでは『工事完成基準と進行基準の違い』と題して、これらの会計基準を仕訳の例も上げて解説してまいります。ぜひ最後までご覧ください。
工事完成基準とは、工事が終了し目的物を顧客に引き渡した時点で売り上げと経費を計上する会計手法です。そのため、引渡しが完了するまで売り上げが計上されることはありませんので、経理処理は後に解説する工事進行基準と比べ楽と言えるでしょう。
デメリットとしては目的物の引き渡しまで確定した収益が不明であるため、「工事が終わったら実は赤字だった…」ということも存在します。また、クライアントから工事期間中に追加の要望等があった場合でも、正確な収益計算をせずに請けてしまいやすいという点もデメリットです。いわゆるどんぶり勘定になりやすいということですね。
工事期間中に発生する仕訳は次のようなものがあります。
①材料費を現金で支払った場合
経費としての計上は目的物の引き渡しが完了してからになりますので、ここでは「未成工事支出金」という勘定科目を用います。工事が進み、引渡しが完了した後は下記の様に経費として計上します。
②手付金を振込で受け取った場合
手付金を受け取った場合も経費同様、売上として計上することはせず「未成工事受入金」という勘定科目を使って処理します。引渡しが完了し、残金を受け取った時は下記のような仕訳となります。
写真のような大規模な工事では完成までそれなりの年数が必要となります。先に解説した工事完成基準では完成までの数年または数十年間、どのくらいの収益となるのか不透明な状態が続いてしまいます。また、会社の利害関係者にとっても収益に関する情報が正確に伝わらないと、不利益を被る恐れがあります。
そこで誕生したのが工事進行基準というものですが、基本的に「工事請負代金が10億円以上」「工期一年以上」の場合は工事進行基準を適用させることとなっています。
工事進行基準は完成基準と異なり、決算ごとに工事が途中であったとしても“工事収益総額”“工事原価総額”“工事進捗度”という3つの要素を参考に売上と経費を計上して行きますので、「工事が終わってみたら赤字だった…」という事態を防ぐことにもつながり、会社の資金繰り計画も立てやすくなるのです。
一方、デメリットとしてはクライアントと打ち合わせの段階から詳細に工事内容・費用について打ち合わせをしておく必要があるため、契約合意へのスピードは完成基準と比較した場合劣ると言えるでしょう。また、経理処理も複雑になりますので会社としても経理スタッフの育成や社長自身が行う場合でも業務量増加といったことがデメリットとして挙げられます。
“工事収益総額”“工事原価総額”“工事進捗度”という3つの要素が登場することは既述の通りですが、“工事進捗度”の数値化は他の2要素と比べ難しいかもしれません。そこで、工事進行基準では「原価比例法」という方式を用いて進捗度を数値化しています。詳しく見て行きましょう。
【例】
工事収益総額6000万円、工事原価総額5000万円の工事があったとします。
1年目にかかった原価は2500万円だったとします。
1年目の工事進捗度は2000万円÷5000万円=0.4%
つまり、40%の進捗度となります。
1年目の売上は進捗度を参考に6000万円×40%=2400万円となります。
これらを仕訳すると下記の通りです。
1年目は上記の通りですが、2年目・3年目と工期が進んで行くのにしたがって、その年の進捗度に応じた金額を計上して行きます。期ごとの会社収益が分かりやすくなりますので、経理の透明性という意味ではやはり工事進行基準が勝っていると言えるでしょう。
工事完成基準・工事進行基準について解説してまいりましたが、工事進行基準に関しては2021年4月より収益認識基準という新しい会計基準が適用されるようになります。もっとも、工事途中で売上や費用を計上できるという工事進行基準と概念自体はそう変わりありませんが、上場企業などは投資家保護のためにも早期の対応が求められるでしょう。
収益認識基準についてはまたの機会に詳しく解説させていただく予定ですが、会計基準が改正になったとしてもいち早く情報をキャッチし、どんぶり勘定で済ますということはせず、自社の体制を整え経営戦略を立てて行くことが建設業には求められます。
どのような会計基準で経理を進めて行ったらよいのか相談したいといった場合は、どうぞお気軽に当事務所までご連絡ください。
今後も建設・土木業の方へ向けて情報発信を行ってまいりますのでよろしくお願い致します。
最後までお読みいただきありがとうございました。
【著者関連記事】
●「生命保険と相続税」
●「マーケティンク゛基礎知識関係性のマトリクス」
当該コラムは、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社の協力のもとに、DREAMJOB Innovation Lab(運営:株式会社DREAMJOB)が運営管理しております。