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高齢の親の金銭管理をどうすべきか?
親が年を重ねていくにしたがって、次第に考えなければいけない問題になってくるかと思いますし、子がいない叔父・叔母、または兄弟がいる場合でも同様でしょう。
家族仲が良好で、子と同じ世帯で生活しているのであれば、そこまで心配する必要もないかも知れませんが、独居または親夫婦のみで生活している場合や、親子間または子同士の折り合いが悪く将来的に遺産争いになってしまいそうな場合では、キッチリと財産を管理することも大切になってきます。
家族信託とは
家族信託は、将来的に判断能力を失った場合でもしっかりと管理できるように、財産を託す本人(「委託者」といいます。)が、管理を託す相手(「受託者」といいます。)に財産管理を委託して、自分のため(「受益者」といいます。委託者兼受益者が親、受託者が子、というイメージだとわかりやすいかと思います。)に、生活や医療、介護のために管理・運用してもらう、という仕組みです。
家族信託自体は、ここ数年一気に注目されてきた仕組みですが、信託という仕組み自体はずっと以前から存在していました。
投資信託、信託銀行といった言葉で使用されていたので、みんな知っているかと思います。「資産を預けて運用してもらう」というイメージですね。
信託銀行の信託とは違うの?
それでは、それら金融機関の信託と家族信託はどこが違うのでしょうか?
金融機関等の信託は、総称して「商事信託」と呼ばれます。
商売のためのビジネス的な信託という意味です(一方、家族信託はこれに対して「民事信託」という呼ばれ方もします。)
金融機関が信託を行う目的というのは、当然ですが利益を挙げることなので、財産の管理・運用を任せることにより、信託報酬などの手数料を彼らに支払うことになります。
金融機関は手数料を受け取る代わりに、預かった資産を運用して財産を増やすように努めます。
一方、家族信託の目的は、本人や家族に良好な生活・介護・療養を与えることや、将来的な円満な財産承継にありますので、基本的には手数料が発生することもありませんし(相続税対策のために、敢えて家族間で手数料を支払うこともあります)、運用によって財産を増やすことが主たる目的でもありません。
家族信託の対策を取ることによって、高齢の親が認知症になってしまいキャッシュカードの暗証番号を忘れてしまった、通帳や銀行印をどこかで落としてしまった、という事態があってもダメージを抑えることができますし、介護施設の月々の利用料の支払いを子が管理したい、将来的に介護費用が底をつきそうなのでその前に実家を売却して現金化しておきたい、といったニーズに対応することもできます。
これが商事信託と家族信託の目的の違いです。
信託で気を付けるべき点
ここで、紛らわしいのですが気を付けなければならない点もあります。
最近は、信託銀行に限らず、通常の都市銀行、地方銀行、保険会社、証券会社などから「信託」と名のついた商品がいろいろ販売されていますし、中には「家族信託」と名のついた商品もあります。
しかし、それらはすべて「商事信託」商品であり、「家族信託(民事信託)」ではありません。
本来の家族信託の場合、信託された金銭の管理のために預金口座(通常の普通預金口座でも十分です。信託銀行の口座である必要はありません。)くらいは使用しますが、あくまで家族間での財産管理の仕組みなので、金融機関等を介在させる必要はありません。
商事信託と家族信託を見分けるポイントとしては、受託者(管理・運用を託された者)が誰であるかという点です。受託者が銀行や保険会社等であれば商事信託なので、いくら「家族信託」という名がついていたとしても、それは商事信託の金融商品です。商事信託である以上、管理・運用の権限があるのは金融機関になりますので、他の家族がそれについて口を出す権限はありません。
本来の家族信託の受託者は、あくまで委託者本人が信任した家族(子、配偶者、兄弟、甥・姪など)ですし、そもそも商品ではなく仕組みなので、手数料が発生するということもありません。
管理を託された子などの判断によって、自由に財産を動かすこともできます。
もちろん商事信託にもメリットはたくさんありますので、検討する場合は商品の内容をじっくり吟味した上で決めるべきだとは思いますが、家族信託との違いはしっかりと意識すべきだと思います。
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