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リーブス倶楽部×DREAMJOB Innovation Lab「家族信託を活用して相続対策はできますか?」

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ここ2~3年で「家族信託」という言葉が社会に出回るようになってきました。新聞や経済雑誌、テレビのワイドショーなどでも特集が組まれましたので、家族信託について基礎的な知識をお持ちの方も多いかと思います。今回は、家族信託を活用した相続対策について、もう少し踏み込んで書いてみたいと思います。

相続対策

まず、一般的に「相続対策」と言われて皆様が思い浮かぶのは次の項目だと思います

①「相続税(節税)対策」

財産の構成を工夫したり、親族に生前贈与を行ったりすることによって、本人死亡時に発生する相続税をなるべく低く抑える(または0円に抑える)ための対策です。
しかし、相続対策は相続税対策だけではなく、他にも下記項目があります。

②「納税対策(相続税支払いのための現金を用意しておくこと)」
③「争族(遺産争いを防ぐ)対策」
④「相続手続き対策(どこの金融機関、証券会社、保険会社と取引があるか、どこの不動産を所有しているか等を整理しておく)」

当事務所では、この4つを総称して「相続対策」と呼んでいます。

それでは家族信託はこれらの相続対策に有効なのでしょうか?

答えは「直接の相続税対策にはならないが、他の対策には有効。但し、使い道に注意!」ということになります。

まず、家族信託自体は相続税対策になりません。家族信託を組んだからといって、税金が安くなるわけではなりません。しかし、家族信託を組んで、信託した財産の管理を家族(子、配偶者、甥・姪など)に任せることによって、

  • ・管理を任された不動産を売却する
  • ・管理を任された資金で不動産を買う
  • ・家をバリアフリーにリフォームする
  • ・福祉車両を買う
  • ・お墓を買う等

というような資産の組み換えができるようになります。必要でないものの購入等を行う必要はないかと思いますが、これらが結果的に節税対策に繋がることもあります。

このように家族信託を活用して節税対策に繋がることもありますが、家族信託の活用により効果を発揮するのはそれ以外の3つです。以下、順に説明していきます。

1.納税対策

相続税が発生した場合、現金一括納付が基本です。しかし特に千葉県の場合、財産の大部分を不動産が占めるという方も多いと思います。そのような場合、納税するための現金をどうやって用意するのか?ということを考えなければなりません。

以前、当事務所で取り扱ったケースでは、遺産総額1億5000万円のうち、不動産が1億4800万円、預貯金が200万円というケースもありました。そのケースでは2000万円近い相続税を納める必要があったのですが、預貯金だけでは足りなかったため、不動産を一部売却して納税資金を用意せざるを得ませんでした。

家族信託を組む場合は、財産の全体像や家族関係を把握した上で、どこまでの財産を誰に信託するかを検討します。

その際、税理士さんの協力を得て相続税の簡易計算を行うことが多いので、それに備えて納税資金を用意できるよう準備します。

相続税は亡くなってから10カ月以内に申告・納税をしなければなりませんが、不動産の売却にはいろいろな手続き(土地の測量、隣地との境界確定、家の荷物の整理、家の取壊し等)が必要になりますので、スムーズに進んだとしてもそれなりに時間がかかってしまいます。

上記のケースのように亡くなってから売却する場合、まずは「誰の名義に変更した上で売却するのか?(故人名義のままだと売却できないため、まずは相続人の誰かに名義変更(相続登記)をする必要があります)」というところからスタートするため、10カ月の期限を考えると、かなりタイトなスケジュールになります。しかも人気のない不動産であれば、誰も買ってくれる人がいないというリスクも考えなければなりません。

そうならないためにも、生前にじっくり準備をしておくことが肝要だと思います。

2.争族対策

家族信託を組む場合は、管理を任せた財産(不動産、預貯金等)につき本人が亡くなった後、その財産を「誰々に承継(相続)させる」という、条項を設けることができます。

「遺言代用機能」と言われ、遺言書と同じく、財産の承継先を指定することができます。
財産を受け取るのは、管理を任された相手でもそれ以外の家族でも、もしくは他人でも構いません。

遺言書が残されていない場合、遺産の分け方については相続人全員で話し合って決めなければなりません(遺産分割協議)。

一方、遺言書が残されていれば、遺言書により財産の承継先が指定されているので相続人同士で話し合いをする必要はありません。

家族信託でも同様の効果が見込まれますが、1点注意が必要です。

通常の遺言書の場合、基本的には遺産の全部が対象になるので、すべての財産について承継先の指定ができますが、家族信託により承継先の指定ができるのは信託財産(管理を任せた財産)に限られます。

家族信託により全財産の管理を任せることは通常行いませんので、家族信託がスタートすると管理を任せた信託財産とそれ以外の一般財産に分かれます。そのため、家族信託で承継先を指定してあっても、それ以外の財産につき遺言書を作成するかまたはそれ以外の財産は相続人たちの遺産分割協議に委ねるということになります。

3.相続手続き対策

これは遺言書作成でも同様のことが言えますが、家族信託を検討する際には、まずはどれだけの財産があるのか、どこに不動産を所有しているのか、口座を持っている銀行は?証券会社は?契約している保険会社はどこでどのような保障内容になっているか、などということを確認しなければなりません。

いわば財産の棚卸しです。

財産の在処を確認して整理しておくことによって、亡くなった後の相続手続きがスムーズに進み、残された相続人たちの負担も少なくなります。

このように、家族信託を組むことによって得られるメリットはたくさんあります。しかし、きちんと家族で話合って進めないとトラブルになる可能性もありますので、慎重に検討する必要もあります。

ひまわり司法書士法人 代表司法書士 本松 紳司

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