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若手士業イノベーション協会×DREAMJOB Innovation lab
「空き家問題、それは私たち街の未来の問題

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空き家の現状について

 空き家問題が議論の俎上に上ってから久しいものの、土地統計調査(E-STAT)によると、平成20年度の全国空き家数は757万戸、平成25年は820万戸、平成30年は849万戸と年々増加しており、自治体並びに空き家のある周辺では空き家問題に苦慮している現状です。


空き家の生じる原因

こうした空き家が生じるのは、いったいどういう理由によるのでしょうか。

(1)一つには、実質的管理者が不在であること。たとえば核家族化により子どもが独立し親の家を管理できない場合や、相続登記を放置したために共有者が増え権利関係が複雑化し管理できない場合が生じています。更には相続放棄後のみで空き家を放置している場合も散見されます(民法940条により自己と同一の管理責任あり)。

(2)次に、所有者の側の高齢化の問題もあります。認知症を発生し意思能力を喪失すれば資産凍結され、自身は介護施設に入所しても自宅の売却は不可能となり空き家化します。

(3)更に、経済的負担の問題もあります。更地になると固定資産税が6倍となるし、解体費用も程々に高額であることから空き家のまま維持したいとの思惑もありますね。

(4)その上、少子高齢化による家屋購入の需給アンバランスがあり、供給過多により潜在的に空き家を生み出す状況にあり、高齢による介護施設入所が常態化することでこの状況を後押ししていると言えます。

空き家放置の問題点

では、空き家が放置されると、どういった問題が生じるでしょうか。

(1)まず、社会的経済的環境の悪化です。家は生き物。人の不在は家を空洞化し家の呼吸を止めてしまいます。家が徐々に朽ち果ててしまうことになり、空き家の存在は、その家自体の景観は当然のこと、近隣の美的景観を壊し、さらに衛生面でも治安の面でも周辺環境を著しく悪化させます。その結果、家の不動産価値のみならず近隣土地の価値をも下落させるという経済的損失を招来します。

(2)次に、経済的負担の増大です。認知症により空き家の処分が凍結されたり、空き家が供給過多で処分ができない場合があります。その場合、空き家の相続人には固定資産税や管理費・修繕積立金を払い続ける責務も生じます。その上、相続放棄のみで相続財産管理人が選任されていないと建物崩落等による損害が生じた場合、責任を問われることになります(民940条)。

空き家を生じさせない工夫とは

では、空き家による弊害を生じさせないためには、どうしたらよいでしょうか。

(1)国レベルでは「空き家対策特別措置法(2015)」を成立させ、倒壊の危険や衛生上有害等一定の空き家を「特定空き家等」と定め最終的に行政代執行が可能としています。代替執行による行政の負担は所有者に求償されるので、空き家放置への一定の抑止策にはなり得ます。

(2)では、私たち個人レベルではどうすればいいでしょうか。
①実質的管理者が不在の面については、二次相続による不動産の共有による権利関係の複雑化を避けることが必要です。そのため早期の相続登記が有効です。

②また、現状が共有の場合でも共有者同士で揉めないよう事前の措置を講ずることも必要ですね。その際に家族信託が有効です。家族信託とは、認知症等で財産管理が不可能な時に備え、家族に財産管理や処分をできるようにする権限を与える契約です。
三人兄弟であれば、(ⅰ)一人を受託者にし他の兄弟がそれぞれの持分の財産管理・処分を任せる家族信託をする方法や(ⅱ)兄弟で一般社団法人を設立し法人を受託者とし兄弟の一人が理事長となり財産管理を担う家族信託で、受託者早逝によるリスクを回避する方法、更には(ⅲ)兄弟を委託者兼受益者、長男の子等を受託者とした家族信託契約の方法もあります。こうした家族信託で共有による処分の困難性(民251条)が解消されることで空き家の発生を防止できます。

③更に、認知症となり売買凍結となるのを避ける対策も必要です。これも家族信託が有効です。自宅所有者を委託者兼受益者、所有者の長男等信頼できる家族を受託者として家族信託を組めば所有者が将来認知症を発症しても売買や賃貸が可能となり空き家の発生を防止できます。

まとめ

空き家にもまだまだ利用価値の高い物件は多数あります。地方であれば定住促進を通じ地域活性化が可能ですし、都市部でもテレワークの増えている昨今、利便性の高い物件をリフォーム再生すれば街に活気が戻ります。個人レベルでも早期に空き家対策に備えていきたいですね。
 



唐司(とうのす)行政書士事務所 代表 唐司 誠

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