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「気を付けたい遺留分」

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こんにちは。
内山公認会計士事務所の内山でございます。

さて、相続税務情報第二回となる今回は「気を付けたい遺留分」と題して、前回解説させていただいた「相続順位と法定相続人」共々覚えておいていただきたい相続の基礎知識となります。

亡くなった方に遺言が無く、法定相続分通りに遺産分割されればスムーズに事は運びますが、「○○に全財産を譲る」という内容の遺言がもしあった場合、さらにその○○が特定の家族や全くの他人であった場合はどうなるでしょう?
遺産をもらえなかった家族は「遺言書に書いてあるから仕方ない」とあきらめられるでしょうか?まして、多額の遺産であればなおさら納得できないと思います。

そこで、民法では遺留分という権利を定めて法定相続人の一部を保護しています。これから遺言書を書こうと思っている方も、遺産をもらうことになる可能性のある方も知っておいて損の無い知識となりますので、専門家の立場から遺留分をわかりやすく解説させていただきます。


遺留分とは?

遺留分とは「相続人が持つ最低限の相続分」のことです。冒頭お話したように、民法でも定められています。
誰かが亡くなった場合、遺言書が無ければ遺産分割協議を経て、特別な場合を除き法定相続分通りに遺産は分けられます。法定相続分については前回の記事で解説しておりますので、まだお読みでない場合は是非ご覧ください。

「相続順位と法定相続人」(前回コラム)
https://dj-innovation-lab.com/?p=986

しかし、遺言書がある場合は、遺言書に不備の無い限り基本的には遺言通りに遺産は分けられます。特定の誰かに多く相続させたり、まったく関係のない他人に財産の一部を遺贈したりといったことも可能です。
つまり、遺言書で誰にどの財産を譲るかは自由に書くことが出来るため、内容によっては遺された家族が著しく不利益を被ることもあるのです。特に遺された配偶者が高齢だった場合はその後の生活も難しくなってしまうでしょう。そこで、最低限の相続分を守るため遺留分が存在するのですが、すべての法定相続人に認められたものではありません。次の項目で詳しく見て行きましょう。

【遺留分の割合】

相続人 全体の遺留分割合 個別の遺留分割合
配偶者のみ 1/2 1/2
配偶者と子供 1/2 配偶者1/4 子供1/4
配偶者と親 1/2 配偶者1/3 親1/6
子供のみ 1/2 1/2
親のみ 1/3 1/3



上の表は各相続人に遺産総額からどのくらいの割合で遺留分が与えられているかを表しています。仮に全くの他人へ全財産を譲るという内容の遺言書があったとしても、遺された相続人に配偶者がいれば最低でも1/2は取り戻すことが可能です。

ここで注意していただきたいことは法定相続人の一人である兄弟姉妹に遺留分はありません。したがって、代襲相続が発生した場合でも甥姪にはやはり遺留分は存在しません。反対に亡くなった方の孫であれば代襲相続となってしまった場合でも遺留分は存在します。
兄弟姉妹には遺留分は存在しないということを覚えておいていただければと思います。

次に上表を元に2つほど例を挙げて個別の遺留分割合を見て行きましょう。

ケース①全くの他人が遺産を受け取る場合


全財産を全くの他人に遺贈する遺言を書いたとします。大揉め間違いなしの状況ですが、遺留分を行使することで図のように遺産の一部を取り戻すことが出来ます。遺された相続人は配偶者と子ども二人になりますので、全体の遺留分は1/2となり、それぞれ上表にある個別の遺留分割合のとおり取り戻すことが可能です。

ケース②配偶者と兄弟姉妹の場合


亡くなった方は全財産を弟に譲ろうとしています。
他に兄妹は妹一人。自身には配偶者がいたとします。上表のとおり配偶者の遺留分は1/2ですので、1億円の遺産総額の内5,000万円は取り戻すことが可能です。
このケースの場合、妹から「私も相続する権利がある」と言われるかもしれませんが、先に解説したように兄弟姉妹に遺留分はありませんので受け取れる遺産はありません。

このケースと反対に「配偶者へ全財産を相続させる」と遺言書に記載があれば、弟・妹の二人に遺留分はありませんので遺産を受け取ることは出来ません。お子さんがいらっしゃらない方は誰に遺産を譲りたいか注意する必要があることがわかります。

遺留分は請求するもの

遺留分の割合の項目で解説した「全財産を○○に遺贈するor相続させる」という遺言は配偶者や子どもといった相続人の遺留分を侵害しています。例えばケース②で取り上げた、遺された家族が配偶者と弟・妹だった場合に、全財産が弟に渡っても別にいいと配偶者が思うのであれば、特に手続きは必要ありませんが、実際にそのような事態はレアケースと言えるでしょう。

そこで、今回解説している遺留分をもらうということになるのですが、これは請求しないともらえません。ケース②の場合で言えば遺産をもらいすぎている弟に対して遺留分侵害請求を行うことになります。一般的には内容証明郵便を送付し請求するケースが多いですが、すんなり応じてくれない場合は家庭裁判所を通じて訴訟や調停といった手続きに移行して行きます。
要するに、黙っていても遺留分はどこからも誰からも返ってきませんのでご注意ください。

先の例では遺産総額1億円としましたが、この中に不動産が含まれていた場合は共同所有という形になるのでしょうか? これについては、先の相続法改正で遺留分の支払いを現金で請求することも可能となりました。これにより、望まない形での不動産の共同所有というケースは減少することになるでしょう。
相続法の改正は遺留分の在り方以外に多岐にわたる項目が改正されましたので、別の機会に詳しく解説していく予定です。

遺留分を請求できない人

配偶者や子どもといった本来遺留分を持つ人でも、次のような場合には請求できません。

①相続放棄した場合
これは自ら「遺産はいりません」と放棄することになるのですが、相続放棄が行われた場合、放棄した人は始めから相続人に存在していなかったものとして扱われますので、遺留分も消滅します。

②相続を廃除された場合
亡くなった方へ生前、暴力や重大な侮辱等問題のある行いをした相続人がいた場合、あらかじめ家庭裁判所に相続人の廃除を申し立てることで、問題ある行動をした方の相続権を奪うことが可能です。しかし、被相続人が亡くなってからでは出来ません。生前に行うか遺言書への記載が必要です。また、「喧嘩しているから」や「嫌いだから」という理由では基本的に排除は認められないため併せて注意が必要です。

③相続の欠格となった場合
こちらはレアケースですが、相続人が被相続人を殺害してしまう、遺言書を隠す、偽造する、脅して書かせるなど非合法な行いをした場合に当てはまります。相続欠格者となると相続人の資格は永久に失いますので、当然遺留分も消滅します。

遺留分請求の時効

遺留分侵害請求は永年の権利ではありません。次の二つうちいずれかの期間となっています。

①相続の開始または遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年
②相続開始から10年

相続の開始とは被相続人が亡くなった時とほぼ同じことになりますが、基本的には亡くなってから1年以内に請求をしないと時効を迎えてしまうことになります。また、海外に住んでいるなどの理由で自身に侵害された遺留分があったことを知らなかったとしても、10年経てばやはり時効となってしまいます。

時効も一度遺留分減殺請求を行えばストップしますので、自身の遺留分を侵害している内容の遺言書だった場合には、お早目に専門家へ相談し請求手続きを取られることをおススメします。

まとめ

今回は遺留分に関する基本的な部分を解説させていただきました。
実際に遺留分を計算する際には相続開始前に行われた生前贈与等も加味する必要がありますので、詳しくお知りになりたい方はお問い合わせください。

遺留分侵害請求の案件はトラブルと隣り合わせであることも事実です。
第一回の相続コラムでも申しましたが、基本的には財産を誰に譲りたいか? という譲る側の都合を優先することはとても大切です。しかし、良かれと思ってやったことであっても、後々親族間でトラブルに発展してしまうことは往々にして存在します。

遺言書を作成する場合は望まないトラブルを回避し、相続人間の遺留分にも十分気を配って作成することが重要だと考えます。

今回のコラムが皆様の参考になれば幸いです。

なお、一般的なケースを元に解説しておりますので、個別のご相談・ご回答を希望される場合は下記よりお問い合わせください。

最後までお読みいただきありがとうございました。




税理士法人内山会計 公認会計士・税理士 内山典弘


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