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「死因贈与と遺贈(遺言)はどっちがいい?」

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「死因贈与」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。一般的には、あまり聞き慣れない言葉だと思います。遺言によって財産を贈与する「遺贈」とよく似たものだと言われています。

死因贈与とは

民法の554条に定められています。

 第554条
  贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。

この「贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与」が死因贈与です。これだけでは何のことかよくわからないですが、この規定は民法の贈与契約に関する規定の中に定められているので、贈与契約の規定を見てみましょう。

 第549条
  贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ず る。

つまり、贈与する人が「あげます」という意思表示をし、もらう人が「もらいます」という意思表示をする必要があります。贈与は「契約」の1つだからです。

この贈与の効力が、贈与者の死亡によって生ずる、というものが死因贈与ということになります。贈与者は、生前に受贈者(財産をもらう人)と死因贈与契約を結んでおいて、贈与者が死亡した時に、受贈者は財産をもらうことができるということです。死亡時に効力が生じて、財産をもらうことができるという点では、遺言によって財産を贈与する「遺贈」と同じですが、遺言は、契約ではなく、遺言者の一方的な意思表示であり、もらう人の意思は関係なく成立するので、この点で、死因贈与とは異なるのです。

つい先日の1月28日、名古屋地裁岡崎支部で死因贈与契約を無効とする判決がなされました。この訴訟は、身寄りのない高齢者の身元保証代行を請け負う愛知県内のNPO法人が、死亡した80代女性との死因贈与契約に基づき、金融機関に預金の支払いを求めたというものです。

契約内容が「不動産を除く全財産を贈与する」との内容であったため、裁判官は、判決理由で「契約は不必要で内容も不明確。死後事務処理の費用は500万円ほどなのに、預金全額を受け取るというのは対価性を欠き、暴利と言わざるを得ない」と指摘しました。判断能力の低下した高齢者と締結されたこのような内容の契約は、民法90条の公序良俗に反し、無効であるとの判断がなされました。

死因贈与契約が、この判決内容のように利用されてしまうのは残念なことですが、前述のとおり、贈与者の死亡と同時に契約の効力が生じますので、贈与者の相続人の知らないうちに相続財産が減少しているということも多く、受贈者と贈与者の相続人との間でトラブルが生じやすいのも事実です。このような死因贈与のデメリットは、遺贈にも当てはまることでしょう。

死因贈与のメリット

死因贈与契約のメリットは、受贈者の権利が守られるという点にあります。生前に受贈者と契約を結ぶため、何をもらえるのかをあらかじめ知ることができる点で、遺贈よりももらう人が安心できます。

また、遺贈は生前に自由に撤回できますが、「負担付き死因贈与契約」については、自由に撤回することができない点で、受贈者の権利が保全されます。負担付き死因贈与とは、受贈者の側に負担を課した死因贈与です。例えば、「死ぬまで介護してくれたら、財産をあげます」というような場合がそうです。この「死ぬまで介護する」という部分が、受贈者に課された「負担」にあたります。

判例によれば、負担の履行があった場合において、やむをえないと認められる特段の事情がない限り、贈与者による一方的な撤回は認められないとされています。ですので、長年にわたり介護をしてもらってきたが、やっぱり死因贈与は撤回するから財産はあげません、ということはできないということになります。

不動産の死因贈与

受贈者の権利が保護される点で、もう一つには、贈与したい財産が不動産であるときは、死因贈与は仮登記をしておくことができるということが挙げられます。遺贈の場合にはできません。

仮登記とは、その名のとおり、もらう人の名前を仮に登記するということです。前述のとおり、死因贈与は贈与者の死亡によって効力を生ずるので、生前にはまだ贈与の効力が生じていないため、通常の登記(本登記)はすることができないですが、「仮登記」ならできるという訳です。贈与の効力は生じていなくとも、死因贈与契約は締結しているため、こうした契約上の権利を保護しておくためにすることができる登記が仮登記です。

仮登記をして不動産の権利の順位を確保しておき、贈与者が死亡して、贈与の効力が生じたときには、その仮登記を本登記にするのです。

不動産を贈与する場合の税金面において、死因贈与と遺贈では次のように違いがあります。

死因贈与 遺贈(遺言)
登録免許税 2% 相続人 0.4%
相続人以外 2%
不動産取得税
(標準税率)
4% 相続人 非課税
相続人以外 4%



法定相続人以外の人がもらう場合には、死因贈与でも遺贈でも同じですが、法定相続人がもらう場合には、死因贈与が不利となってしまいます。

まとめ

だれにどの財産を承継させるのか、もらう人の権利をどのように保護するのか、税金面ではどうか・・・このようなことを比較検討して、財産の承継方法を考えるといいですね。その選択肢の一つとして死因贈与という方法もあるということをご紹介させていただきました。



司法書士法人PEAKS TOKYO OFFICE 業務執行社員 司法書士 重光 卓彌





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