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「不動産投資のサブリースについて」

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不動産投資(サブリース)

 最近、会社員の方で不動産投資をされている方を拝見致します。ローンを組んで不動産を購入し、当該不動産を転貸し、賃料をローン返済に充てるというものです。

 このような取引をする動機は、居住している不動産に賃料を支払っていても、自らの不動産になるわけではないため、資産を形成したいという意向、ローンを組むことにより、節税対策になるという意向及び転借人が支払う賃料を原資として、ローン返済に充てるため、支払滞納リスクが少ないと思われる事のようです。今回はこのような事例において、法的に知っておくべき事柄について取り上げたいと思います。

具体的事例

具体的な事例で、不動産投資(サブリース)について説明したいと思います。

【事例】
甲さんが不動産Aをローンを組んで購入し、サブリース会社乙に賃貸し、サブリース会社丙がサブリース会社乙から転貸し、入居しているケースを考えてみましょう。

【前提事項】
上記のような事例において、前提として押さえておくことは、不動産にかかる修繕費用は、甲が負担します(民法606条1項)。そのため、具体的に、クロスの張替え等の費用は、賃貸人たる甲が負担することになります。日常必要な費用(電球の交換等)といったものは、入居者が負担するものとなります。

また、不動産Aを利用する賃料は、丙が乙に対して、支払う義務を負い、乙は甲に対して支払う義務を負います。そのため、丙が無資力で賃料を滞納したとしても、賃貸人甲は乙から賃料を収受することが出来ます。

したがって、賃貸人甲としては、修繕費用の負担や固定資産税以外に特段支出はなく、賃料は乙が支払ってくれるため、乙が賃料を滞納する等しない限り、ローンも返済でき、ローン返済後には不動産が自己所有となり、特段問題が生じないように見えます。

【法的なリスク及び経済的なリスク】
では、このような事例において、どのようなリスクが存在するのでしょうか?リスクに対する対処法は、後に述べるとして、まず、リスクの内容について大まかに概観致します。

①入居者リスク
まず、入居者が不動産の価値を毀損(きそん)するリスクが存在します。不動産所有者であり賃貸人である甲としては、不動産の価値を毀損される事の経済的損害がとても大きいです。

仮に、入居者が不動産の価値を毀損したのであれば(例えば、壁に大きな傷をつけた,穴を空けた等)、所有者及び賃貸人として、損害賠償請求をすることが考えられます。しかしながら、入居者に金銭的な資力がない場合、訴訟で勝訴しても、損害額を回収できないおそれがございます。また、訴訟をする事による弁護士費用や労力も無視できません。

したがって、不動産の価値を毀損するような入居者自体が、大きなリスクとなります。

②賃料滞納リスクや賃料
サブリース会社が倒産する、または、賃料を滞納する場合等が想定されます。他のリスクよりは、可能性も高くないと思われます。

③撤退リスク
上記に取り上げたリスクの中では、最も確実に存在し、念頭に置いておくべきものです。

不動産投資については、実際に不動産に入居している賃借人や転借人がいる以上、入居者に付随した法律問題が避けられません。ここが株式投資と異なるところです。売りたいときに簡単に売れるわけでもなく、場合によっては法的な紛争にまで発展するケースも存在します。

以下、具体的にみてみましょう。

仮に、不動産投資を中止して、不動産を売却したい場合、当該不動産は売却できるのでしょうか。

所有者は不動産を自由に売却することができますので、不動産に入居者がいる場合でも、法律上売却は可能です。しかし、入居者がいる不動産は、当該不動産を使用したいと考える買主は、不動産の購入を控える可能性が高いです。自ら購入した不動産を使用したいと考える者は、購入しても入居者がおり使用出来ない不動産を、購入したがらないからです。つまり、購入者が自己使用目的の人ではなく、投資物件として考える顧客に限定されてしまいます。

では、入居者に退去してもらったうえで売却するという方法はどうでしょうか?この場合、借地借家法という法律があり、入居者は手厚く保護されております。実務上、入居者を退去させるためには、立退料を支払わなくてはいけないケースが多いでしょう。

立退料については、少なくとも6か月分は支払うケースが多いです。特に、所有者が当該不動産以外の不動産を所有しており、そこに居住している場合(つまり、不動産を2件所有しているケース)、立退料を支払わないで退去してもらうことは難しいでしょう。また、仮に、うまく入居者が立退料を支払わないで退去してもらえることになったとしても、サブリース会社乙との関係で、賃貸借期間中の途中解約に賃料半年分程度の違約金が定められているケースも多いです。

したがって、立退料や違約金の支払いをしないで、入居者を退去させることは、比較的困難です。

このように、入居者に対して、基本的に立退料を支払わないと退去してもらえないのは、借地借家法という法律によるものです。借地借家法というのは、強行規定といって、当事者が異なる合意をしても、法律の内容と異なる合意がそもそも無効となってしまいます。

したがいまして、不動産投資については、入居者を保護するという借地借家法を無視することは不可能であり、これを常に念頭に置く必要があります。すなわち、通常の株式投資等と異なり、入居者を退去させて不動産投資を自由に中断することはできません。

法的な視点から、株式投資と同じ感覚で「出口」を考えていても、法的には簡単に「出口」が用意されておらず、撤退に費用が必要となることをおさえておくことが重要です。

【リスク対処法】
上記のリスク①及び②の対処法については、入居者の審査を厳重に行う、サブリース会社の経済状況を把握する、家賃保証を導入する等といった対処法がございます。

しかしながら、リスク③については、確実な対処法は存在しません。法律によって入居者の生活の本拠を確保するという事が保護されているからです。不動産投資をする以上、事前に抑えておくことが必要なものとなります。

また、裏を返せば、ローンを組んでのサブリースの場合、長期的な視点を常に持つ必要がございます。

まとめ

以上、法的な問題も含めて、情報収集し、不動産投資を行うのが良いと考えます。




弁護士 味間 明徳


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