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「保険と税金」

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コラム読者の皆様こんにちは!
東京・名古屋・大阪の三都市を中心に企業税務・相続税務を中心に活動しております、内山公認会計事務所の内山典弘と申します。

今回も企業経営者や会社員の方へ覚えておいて損のない、役に立つ税務知識をお伝えしてまいりますのでどうぞよろしくお願い致します。

さて、季節の移ろいは早いもので、年末調整の季節が近づいてまいりました。書類の書き方や保険料控除証明書の見方等の情報はよく目にすることと思いますが、実際に生命保険料控除を使うことによってどのくらいの金額を節税できるのか? といったことは意外と皆さんご存じないのではないでしょうか。

そこで今回は「保険と税金」と題して、個人の方へは各種控除でどのくらいの金額を控除できるのか? といったことと、経営者の方へは法人保険に加入する際の順番と保険の選び方について解説していきたいと思います。
特に経営者の方であれば、まず初めに加入すべき保険に意外と入っていない方は多くいらっしゃいますので、本コラムを法人保険選びの参考にしていただければ幸いです。

※当コラムでは副業をしていない一般的な会社員の方と、中小企業の経営者を対象として解説しています。


生命保険料控除の基本

年間の支払保険料等 控除額
20.000円以下 支払保険料等の全額
20.000円超~40.000円以下 支払保険料等×1/2+10.000円
40.000円超~80.000円以下 支払保険料等×1/4+20.000円
80.000円超 一律40.000円

上表は新生命保険料控除の一覧です。生命保険料控除は近年新しい計算方法へと変化しましたが、具体的には平成24年1月1日以後に締結した保険契約等は上表を元に所得控除額を計算します。

所得控除という難しそうな言葉が出てきましたが、分かりやすくご説明すると「稼いだ金額から税金(所得税)を計算する際に、税金計算の元になる数字(所得)から差し引けるもの」となります。配偶者控除や、社会保険料控除・医療費控除などは有名ですが、今回解説する生命保険料控除も所得控除の一種です。

新制度となってから生命保険料控除は3種類に分かれました。

  • 一般生命保険料控除(死亡保険)
  • 介護医療保険料控除(医療保険やがん保険)
  • 個人年金保険料控除(加入基準を満たした個人年金保険が対象)

これら3つがそれぞれ上表の計算式の通り使えますので、生命保険料控除は最大で12万円ということになります。
ご自身の加入している保険が3つの内どれに該当するかわからなくても心配は不要です。保険会社から送付される控除証明書に記載がありますので、それを参考に上表の計算式の通り進めて頂ければ控除額は算出することが可能です。

仮に死亡保険に年間10万円、医療保険に年間10万円、個人年金保険に年間10万円をそれぞれ支払っていれば、生命保険料控除12万円の限度いっぱいまで使い切ることは可能ですが、ここまで高額な保険に入っている方も近年は珍しいのではないでしょうか。
そこで、リアルでより身近な加入状況を元に、実際にどのくらい節税になるのかを例を挙げて計算していきたいと思います。

生命保険料控除の節税効果は?

(例)課税所得300万円の方の場合
生命保険料控除を計算に入れる前の課税所得が300万円の方がいたとします。
新制度となってから加入した生命保険があり、死亡保険に月3,500円、ガン保険に月3,000円支払っていた場合次のようになります。

一般生命保険料:3,500円×12か月=42,000円(死亡保険の年間支払保険料)
介護医療保険料:3,000円×12か月=36,000円(ガン保険の年間支払保険料)

死亡保険の所得控除額(上表参照)
42,000円×1/4+20,000円=30,500円
ガン保険の所得控除(上表参照)
36,000円×1/2+10,000円=28,000円
生命保険料控除の合計
30,500円+28,000円=58,500円

この場合、58,500円を課税所得である300万円から差し引けますので最終的な課税所得は300万円-58,500円=2,941,500円となり、千円以下は切り捨てという決まりもありますので、2,941,000円という金額を元に所得税を計算します。所得税の計算に関しては下記の速算表を使用します。

所得税の速算表

課税される所得金額 税率 控除額
1.000円~1.949.000円まで 5% 0円
1.950.000円~3.299.000円まで 10% 97.500円
3.300.000円~6.949.000円まで 20% 427.500円
6.950.000円~8.999.000円まで 23% 636.000円
9.000.000円~17.999.000円まで 33% 1.536.000円
18.000.000円~39.999.000円まで 40% 2.796.000円
40.000.000円以上 45% 4.796.000円

すると所得税は2,941,000円×10%-97,500円=196,650円となります。
もし、生命保険に加入していなかった場合はどうなるでしょうか?
課税所得は300万円ですので、300万円×10%-97,500円=202,500円

生命保険に加入していたことで202,500円-196,650円=5,850円の差となり、イコール節税に繋がったと言えるでしょう。

生命保険料控除は所得税以外に住民税にも使うことが可能です。

個人住民税の生命保険料控除(新制度)

年間の支払保険料等 控除額
12.000円以下 支払保険料等の全額
12.000円超~32.000円以下 支払保険料等×1/2+6.000円
32.000円超~56.000円以下 支払保険料等×1/4+14.000円
56.000円超 一律28.000円

※住民税の最高控除は一律28,000円ですが、3つの保険料控除を合計しても最高は7万円までとなっています。

死亡保険42,000円×1/4+14,000円=24,500円
ガン保険36,000円×1/4+14,000円=23,000円
24,500円+23,000円=47,500円を控除すること可能となります。
一般的に住民税は10%ですので、47,500円の10%である4,750円の節税に繋がります。

まとめると…
所得税5,850円。住民税4,750円。合計で10,600円の節税に繋がります。
月6,500円ほどの保険料であっても所得によっては年間1万円程度の「得」になりますので、生命保険料控除は積極的に利用していく制度と言えるでしょう。また、新制度以前の旧制度時代に加入した方は上表と計算が異なりますのでご注意ください。さらに、持ち家にお住いの方で地震保険に加入している方は、地震保険料控除も利用することが出来ますので、生命保険料控除同様に利用していただければと思います。

必要な保障に加入していますか?

毎年、顧問先のお客様より年末調整のご依頼をいただきますので、様々な方の控除証明書を拝見しておりますが、同じような年収・世帯構成によっても加入している生命保険の保険料はバラバラです。
もちろん、全ての人が同じ保険料になるわけではありませんが、生命保険に加入する際にライフプラン等をしっかり組み立てれば、大体同じような保険料に落ち着くのが一般的です。ちょうど保険について考えやすい時期ですので、今加入している保険が自分や家族にとって本当に合っているのか? 必要なものなのか? についてよく考えてみてはいかがでしょうか。

2018年の4月に標準生命表の改定があり、いくつかの保険会社では死亡保険の保険料が下がっているという事実もございます。もしかすると、今加入している保険よりも割安で同程度の保障内容のものがあるかもしれませんので、おうち時間で加入している保険のメンテナンスを行ってみるのもいいかもしれません。

法人が加入すべき保険はまず…

次に法人経営者の方へ向けた保険の情報をお届けします。
「勇退資金」「事業承継」「万一の時の事業継続」等々、法人経営者が加入する保険には目的に応じた商品と加入理由が多数存在します。生命保険以外にも「事業賠償責任保険」といった損害保険に加入している方も多数いらっしゃることでしょう。

しかし、加入する順番。つまり、優先すべき順番を間違えて加入している経営者の方が多いと仕事柄感じます。特に多いのが「節税」を目的に加入していると勘違いしている方は非常に多いと言えるでしょう。

2019年6月28日に国税庁から、いわゆる「節税保険」に関する保険料の取り扱いに係わる基本通達が改正されました。もっともそれ以前の2月ごろより生命保険各社では法人向けの保険販売を一時休止していたので、大きな混乱にはならなかったと記憶しておりますが、保険販売に携わられている方々にとっては大きな影響を及ぼしたと言えるでしょう。

法人向けの生命保険についてはいずれ別の機会に詳しく解説したいと思いますが、今回の基本通達の改正により、「お金を貯めつつ、大きな損金を作るという保険」は事実上消えたと言ってよいでしょう。基本通達改正以前に加入した場合はこの限りではありませんが、これからの法人保険商品は今まで以上に保障に重きを置き、しっかりとしたリスクマネジメントの元に加入していくことが重要であると考えます。

そんな時代だからこそ保険に加入する順番がより大切になってきます。
まず何よりも一番に法人経営者が加入すべき保険は借入金対策の保険です。
※賠償責任保険等の損害保険も必要に応じて事業開始当初より加入することが重要です。

理由としては、住宅ローンの団信(お金を借りた方に万一があった場合でも保険金で残りの借金を清算できるので、遺された家族は家を売却することなく借金も無くなり住み続けることが出来るという保険)と同様に、経営者に万一があった場合、会社を続けるにせよ、清算するにせよ、借入金(借金)をどうするかという問題は常に付きまといます。

借入金が無ければこの限りではありませんが、それでも中小企業の場合、経営者に万一があると事業に一時的な停滞が起きてしまうことは容易に予想できることです。それを防ぐためにも経営者の死亡保障はまず初めに加入すべき保険と言えるでしょう。

保険商品は借入金対策・万一の事業継続を考えるだけであれば、掛け捨ての定期保険が保険料も安く適していると考えます。また、事業を始めたばかりであまりお金をかけたくないという方であれば、経営者の年齢にもよりますが10年更新の定期保険(保険期間が10年ごとに更新されます)を選択すると良いでしょう。
保障額は借入金を返済できるだけの金額と一年分の売り上げに匹敵する金額まで用意できることが理想的ですが、会社立ち上げ当初などで保険に割く予算がない場合は、せめて借入金分とその返済期間の間だけは加入することを強くおススメします。

次に法人経営者が加入すべき保険として生前給付保険が挙げられます。
生前、つまり生きているうちにもらえる保険ですので、医療保険やがん保険等が該当します。年換算保険料相当額にもよりますが、会社の経費を使い節税を行いながら、経営者個人の引退後の保障を確保することも可能なスキームも存在します。

節税はともかくとして、やはり中小企業の場合経営者の大きな病気や入院といった事態が発生した場合、事業が停滞するリスクは高いと言えるでしょう。そこをカバーするために、借入金対策の保険に加入した後で、経営体力に余裕がある場合は加入することをおススメします。
保険の仕組みは大まかに、入院したら1日○万円というタイプの物や、ガンと診断されたら○○○万円といった物。三大疾病になり所定の手術を受けると〇○○万円給付されるといった物など、多岐にわたりますので信頼できる保険営業パーソンにご相談ください。

「節税」ではなく「繰り延べ」

法人経営者が加入すべき保険について順を追って解説してまいりましたが、死亡保障と生前給付以外に勇退資金を貯めるというものも存在します。おそらく一度は聞いたことのある「退職金を保険使って貯めましょう」というものです。

先に述べたように国税庁の基本通達改正により、これから加入する場合は効果のうすい保険となってしまいましたが、以前は法人保険と言えばコレというくらい盛んに販売された商品であったことは事実です。
保険種類にもよりますが、保険を解約した時に帰ってくるお金が払い込んだ保険料の9割を超えるような場合でも、払った保険料の半分を損金(経費)として落としながら貯めて行けるような商品も存在していました。現在では最高解約返礼率により損金算入できる割合が決まっているため、高い返礼率を誇る商品であれば、損金に算入できる金額も小さくなってしまいました。
基本通達改正前に加入していた場合は、多額の保険料を支払っても上記のような仕組みを使って退職金を貯めることができ、保険を解約した時に会社の口座に入ってくるお金は益金になりますが、同時に経営者へ退職金として支払うため役員退職金の金額にもよりますが基本的に法人としての税金はかかりません。

このように保険を使って「節税」することは可能といえば可能でした。
しかし、勇退資金を貯める保険以外にも短期間で返戻金が立ち上がり、その期間払った保険料は全額損金になるような商品も存在しており、「全額損金」「節税」というキャッチ―な響きから加入者を増やしてきたという過去がありました。

間違えないでいただきたいのは、保険を使った「節税」は「節税」といえば「節税」かもしれませんが、それは一時に過ぎず、正しくは「繰り延べ」であるという点を経営者自身が認識することです。さらに、一時的に保険料を支払うことになるわけですので、会社のキャッシュは減少します。

どういうことかと言うと、支払った保険料の半分もしくは全額が損金になります。ということは経費です。当然その分だけ利益は削られますので、加入した期の税金は安くなります。

しかし、数年後解約したらお金が戻ってくるわけですから、その戻ってきたお金の使い道がない限り解約した期に益金として課税対象になります。要は税金として支払うお金を「繰り延べて」いるだけに過ぎません。完全に非課税になるわけでは断じてないのです。
もちろん、戻ってくる予定のお金の使い道が決まっている場合がほとんどだと思いますが、その予定が狂ってしまったらどうしたらよいでしょう? 
事業が予定通りにうまくいく保障はどこにもありません。繰り延べを取るより、税金を支払うことになったとしても、手元にキャッシュを置いておく方が不測の事態にも対処できると個人的には考えます。

このコラムを執筆している2020年10月現在に「節税」をうたった保険商品は存在しませんが、中小企業経営者の多くが「納税アレルギー」を抱えている現状、保険商品に限らず、何らかの手段を使って「繰り延べ」を選択する経営者は多いと言えるでしょう。

保険はあくまで保険。保障です。
『起きる可能性は低いかもしれないけれど、起きた時にお金の面で大きな痛手を負うことになるから、用心して入っておく』ものです。この考え方は法人・個人問わず同様です。

一般的に個人に比べて法人保険は保険料も大きなものとなるケースが多いので、加入する理由と順番を間違えずに賢く保険と付き合い、堅実な経営をなさっていただければと思います。

今回のまとめ

個人の方であれば年末調整の保険料控除計算をめんどうくさがらずに行い、これを機会に必要な保障に必要な分だけ加入しているか点検していただく。

法人経営者の方であれば保険に加入する順番を間違えず、「節税」と「繰り延べ」は異なるという認識を持ち、手元にキャッシュを残すという選択も考えていただく。

それぞれこのようなことをお伝えしてまいりました。
個人の生活・法人の経営それぞれにとってお役に立っていただければ嬉しく思います。保険に限らず金融商品や税金は一般の方にとって難しいというイメージがあるかと思いますが、本コラムを通じて今後も出来るだけ専門用語を使わずに、わかりやすく解説させていただきますので、次回以降もどうぞよろしくお願いいたします。

最後までお読みいただきありがとうございました!




税理士法人内山会計 公認会計士・税理士 内山典弘


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