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若手士業イノベーション協会×DREAMJOB Innovation lab
vol.4 人を信じながらも疑う。性善説と性悪説からの学び。



中国古典では定番の性善説と性悪説ですが、説としてどちらが優れているであるとか、自分ならどちら寄りなのかと考えるのはナンセンスかもしれません。今回はこの両説を現代の事例に絡めてお伝えしていきます。

■性善説と性悪説
孔子の説いた儒教を継承し、発展させたのが孟子(もうし)と荀子(じゅんし)という二人の思想家です。

同じ儒教でありながら、孟子は性善説に立ち、仁と義に基づく政治を主張したのに対し、荀子は性悪説に立って、礼と義による規範の確立を政治の課題と主張しました。

孟子の性善説は「人間の本性は善である」ことを出発点とした考え方です。人間はもともと仁や義といった素晴らしい徳を持って生まれてくるものの、放っておくとさまざまな欲望に負けて、せっかく備えていた徳を失ってしまうので、自らを高め続ける努力が必要とすると説いています。

一方、荀子の性悪説は「人間の本性は悪である」ことを出発点とした考え方で、仁や義といった徳は後天的な努力によって身につくものでしかなく、放っておくとさらに悪くなってしまうので、悪である本性を抑え込むためには規範といった外的圧力が必要と説いています。

■人は矛盾した性質を併せ持つ生き物
善と悪という観点からすると極端な人物を想像してしまうかもしれません。例えば、誰から見ても真面目でルールをよく守り、努力家で人に対して親切なAさん。やることなすこと社会のルールはお構いなく、傍若無人で無気力で自分勝手なBさん。

こんな二人の人間がいたとして、大概嫌われたり、迷惑な存在となるのはBさんだと思いますが、真面目そうなAさんのような人も必ずしも完全無欠の善であるとは限りません。

日頃、「真面目に見えたあの人がこんな犯罪をするなんて」というニュース見かけたりするのも日常だと思いますし、犯罪でなくても、自分の周囲でも「え?あの人がそんなことしてたの?」と驚くことも多いかと思います。

魔が差すという場合もあるかもしれませんが、表面的には真面目そうにしているのに、人が見ていないところでは暴力的な性質だったりと人には二面性や多くの闇のような部分があることに驚かないことも少なくありません。

完全な善もないし、完全な悪もない。人間というのはそもそも矛盾した性質を併せ持った不完全な生き物であると捉えることが人間理解の出発点です。

■無人販売所に見る性善説と性悪説
コロナ渦で業績を伸ばしているビジネスのひとつに無人販売所というものがあります。特にこの1~2年で急激に伸びているのは餃子の無人販売所なのですが、万引きされないのかと不思議に思う方も多いかと思います。

無人店舗で冷蔵室から餃子を取り出して、お金を支払うシステムですが、表面的には性善説のように感じます。けれども、防犯上の仕組みもかなり考えられています。

1.料金箱が賽銭箱のよう
  →万引きしたらバチが当たると感じさせる。料金箱も頑丈な作り。
2.ガラス張りの店舗
  →外から店舗内が丸見えなので、万引きしにくい。
3.人通りの多い立地
  →人の目を気にして、万引きしにくい。
4.防犯カメラの注意書き
  →防犯カメラ作動中と堂々と掲示している。
5.常に店舗内外が照明で明るい
  →人通りがあり、外から丸見えで店舗内外が明るいと万引きしにくい。

無人でもきちんとお金を払ってくれるだろうという期待と万が一に備えた対策を兼ね備えているのが今時の無人販売のようです。ちなみに地方では野菜や果物の無人販売所をよく見かけますが、やはり一定数の不届き者がいるようですし、神社でも賽銭箱泥棒なども少なくないようです。

ここ数年、コンビニなどの無人店舗の実証実験が数多く行われていて、購入商品の認識やキャッシュレス、レジレスなどの技術的側面がフォーカスされていますが、無人店舗で商品と代金を確実に決済するというのは本質的には性善説と性悪説のせめぎ合いとも言えます。

開発担当者からすれば、万引きされることなど考えたくないかもしれませんが、どこかで万一の担保を検討しなければいけないでしょうから、餃子の無人店舗の例のように人間の心理を考慮した対策も考えなければいけないのは当然のことだと思われます。

■仕事では悪意を持たないリスクにも対応策を考える
例示として無人店舗における万引きという明確な悪意を持った行動への対策を性善説、性悪説の観点からお伝えしましたが、仕事の場面では悪意を持たないリスクというものも存在します。

分かりやすいのは、うっかりミスです。真面目に仕事をしているのに、入力すべきデータを間違えて大きな損害を発生させてしまうといったことです。

人間のやることですから、規模に関わらず企業では毎日うっかりミスが大量発生するものです。その予防のために、システムで防ぐ、人的なダブルチェックで防ぐ、やり方はさまざまかもしれませんが、「人は必ず間違える」という前提は性悪説の延長上にある考え方とも言えます。

ベテランであったり、優秀な人間のやることだからミスがある訳がない、そう信じてノーチェックで進めた仕事が大きなトラブルを引き起こしてしまう。そんな事例を皆さんもたくさん見てきたと思いますし、ご自身が当事者であったりした苦い経験をお持ちかもしれません。

経営者、管理職の方に肝に銘じて欲しいのは、「人を信じて、仕事を疑う」という観点です。どんなに信頼できる部下であっても、所詮は人間のやることですから必ず間違えることがある。これを忘れてはいけません。

とはいえ、はなから部下を信じないといった言動があからさま過ぎると部下も一気にやる気を失くしますから、何も起きていない平時の時にこそ業務設計を見直し、ミスを減らす工夫をする必要があります。

孟子や荀子が唱えた性善説、性悪説というのは政治に対する取り組み方に対する考え方ではありますが、仕事をはじめとする日常の生活においても考慮しておいた方がいい考え方だと思います。

最後までお読みいただきありがとうございます。



株式会社コナトゥスマネジメント 代表  平原 孝之


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