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発行 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
編集 DREAMJOB Innovation Lab

法人成りのタイミングとメリット・デメリット

コラム読者の皆様こんにちは!
内山会計の内山でございます。

この記事では個人事業主の方・小規模事業者の方へ向けて、税理士・会計士としての立場から、専門的な知識・情報をわかりやすく解説してまいります。

さて、12月・1月とマーケティングの基礎知識について解説させていただきましたが、今月はマーケティング・集客がうまく行き、売上が上がってきた場合に個人事業主の誰もが考える「法人成り」について実行するタイミング、メリット・デメリットを解説していきたいと思います。

すでに事業を法人化している方も多くいらっしゃいますが、そもそも個人事業と法人の違いはどこにあるかをご存知でしょうか?
納める税金の違い、節税手法、社会保険の違いなどについてわかりやすく解説してまいりますので、これから法人成りを考えている方は特にご覧いただきたい内容です。どうぞ最後までお付き合いをよろしくお願い致します。

法人成りとタイミング

起業される方の多くが個人事業主からスタートし、業績アップなどに伴い、自身の事業を法人化していくことは多く存在することです。これを「法人成り」と呼びますが、よくあるご相談の一つに「どのタイミングで法人成りすればよいかわからない」というものがあります。一般的には下記の3つが法人成りタイミングと言われていますので、それぞれを詳しく見て行きましょう。

消費税を納める立場になるか?

年間売り上げが1000万円を超えると消費税の納税が必要になってくることはご存知の方も多いことでしょう。ただし、消費税が課税されるか否かは原則2年前の売り上げを元に判定されています。
上図をご覧ください。個人事業主として開業し初年度は600万円の売り上げをあげることが出来ました。1000万円未満かつ2年前には1000万円を超える売り上げが無かったわけですから、消費税は免税となります。
開業2年目、3年目は共に1000万円以上の売り上げをあげていますが、2年前は共に1000万円以上の売上となってはいませんので、初年度同様消費税は免税となります。
 
実際に消費税の納税義務が発生してくるのは4年目からとなりますが、このタイミングで法人成りを行うと、法人としては初年度からのスタートとなりますので2年前の売上はゼロ円です。法人2年目も2年前の売り上げはありませんので同じく消費税は免税となり、実際に消費税が課税されるのは法人3年目からとなります。
 
つまり、個人事業主として開業初年度にいきなり1000万円を超える売り上げをあげたとしても、個人事業の2年+法人成りで2年=計4年間消費税の納税義務が生じない可能性があるということになるのです。
そのため、消費税課税のタイミングで法人成りを行う方が多いというわけです。
 
※大企業の子会社など消費税の免税に該当しない場合もございます。

所得が増えてきた時

上図は所得税の速算表です。わが国では稼げば稼いだ分だけ税率も高くなる累進課税が採用されています。個人の場合は国税である所得税以外に地方税である住民税、ほとんどの業種が該当する個人事業税も存在しますが、これらは累進課税ではなく税率が決められています。

一方、法人は国税である法人税のほか、個人と同じように住民税も課税されます。
ただし、法人税は利益に応じて税率が変化する比例税率となりますので、個人の所得税とは性質が異なります。多くの中小企業では年800万円以下の利益に対しては15%、それを超えた部分に関しては23.2%の法人税率が課されますが、その他住民税などの税負担を考慮すると、法人の利益に対しては30%ほどの実効税率となります。

上表と単純な比較は出来ませんが、一般的に個人事業の所得が800万を超えてきたあたりから法人成りの税メリットが発生すると言われます。ただし、法人の場合は赤字であっても住民税の均等割り(※自治体により違いはありますが7万円ほど)が発生しますので、その点は注意しておきたいところです。

もっとも、税額上の法人成りメリットは個人の所得控除や事業外収益などにより変化しますので、詳細な分岐点を知りたい場合は税理士へ相談されることをおススメいたします。

社会保険へ加入したいと思った時

個人事業主の場合、常に雇っている方の人数が5名未満であれば社会保険の加入は任意です。そのため、国民健康保険と国民年金に加入することになるのですが、厚生年金と比較した場合、将来貰える金額には大きな違いが存在します。

一方、法人の場合は社会保険の加入が義務となっているため、社長一人だけの会社であっても、協会けんぽや厚生年金への加入が必須となります。社長ご自身や従業員のことを考えると、国民年金よりも厚生年金に加入した方が将来貰える年金は増えますし、何より「社保完備」として求人を出すことも可能です。働いてくれている従業員の満足度向上にもつながることでしょう。

ただし、税金とは異なり社会保険は黒字でも赤字でも毎月会社負担分が必ず徴収されます。社長自身の役員報酬や従業員の給与により金額は変わってきますが、社会保険料により資金繰りを悪化させてしまうということはよくあるケースですので、社会保険加入のメリットばかりではなく、費用面まで考えて法人成りを行うか否か選択していくと良いでしょう。

法人成りのメリット

法人成りすることで得られるメリットの内、代表的なものを解説してまいります。先に述べた社会保険への加入はメリット・デメリットそれぞれを伴うものでしたが、消費税免税などのように大きなメリットとなるものも存在するのです。

給与所得控除が使える

法人成りした場合、社長個人と会社は別人格となりますので、その会社で社長として働くということは役員報酬(給与)を会社から受け取ることになります。中小企業の場合は定期同額給与と言って、毎月決まった金額を役員報酬として支払うケースが多いですが、きちんと毎月同額を社長個人に支払っていけば、それは経費として認められます。
ということは上図のようにそれだけ経費を増やせることになりますので、結果的に法人税も減らすことが可能です。

もちろん社長個人としてはその分が個人所得になってしまいます。会社から個人にかかってくる税金が変わっただけ…と思うかもしれませんが、給与には給与所得控除というものが存在します。
会社から貰った給与額にもよりますが、55万円~195万円の控除を受けることが可能です。個人としてもらった役員報酬の内、給与所得控除を使うことで結果的に会社・個人双方を合計した場合、個人事業の場合と比較すると税金を抑えることにつながるのです。

また、給与所得控除以外に法人では退職金を社長自身に支給することも可能です。個人事業主では退職金という概念がありませんが、法人の場合役員の在任期間・役員報酬額・役員の功績を考慮し合理的な金額であるとされれば損金算入も可能です。一方、退職金をもらった社長自身は退職所得控除を使うことも出来ますので、スムーズな事業承継も可能になるというわけです。

節税の幅が広がる

法人となれば「出張手当」「慶弔見舞金」など経費として計上できるものが増加します。出張した際の交通費や宿泊費は個人事業主でも経費となりますが、出張したことに対する「手当」は法人だけに許されたものです。
また、慶弔見舞金も従業員の結婚や出産、入院や身内に不幸があった際には給与と別に福利厚生として支給することで経費となります。これは社長を始めとした役員も同様です。
 
ただし、事前に出張旅費規程や慶弔見舞金規定などをルール化しておく必要があります。また、会社規模や社会通念上あり得ない高額な手当や見舞金は経費と認められない場合もありますので注意が必要です。
 
手当や見舞金以外に生命保険を使って節税することも可能です。
個人事業主の場合は生命保険料控除のみでしか所得控除を受けられませんが、法人の場合契約形態により全額を経費として計上することが可能な場合もあります。
 
例えば入院1日1万円支払われる保険に契約者を法人、被保険者を社長、受取人を法人として加入していたとしましょう。短期払いの場合年間保険料が30万円以下であれば全額損金(経費)とすることが可能です。
 
上記契約の場合、社長が入院し保険金が支払われると雑収入になりますが、先述の見舞金規定を活用し適正な見舞金を社長に支払うと、雑収入を見舞金で相殺できるケースも存在します。法人における生命保険活用についての詳細な解説は別の機会に譲りますが、個人事業主と比べると、活用の幅は大きく広がると言ってよいでしょう。

対外的信用と補助金

対外的信用度に関しては近年、働き方の多様化が進んできたという時代背景もありますので、昔ほど「法人だから安心」という時代でも無くなってきたように感じます。しかし、金融機関への融資申し込みや、大企業との取引では未だに法人であるか否かも重要なファクターの一つとして数えられていることは事実です。

一方、補助金に関しては未だに法人のみが対象というものも多く存在します。近年ではコロナの持続化給付金が個人100万円、法人200万円だったように、明確に差別化されているというものもあります。
補助金や給付金を多く受け取るために法人化するというのは全くもっておススメできる話ではありませんが、個人との違いはこのような部分にも表れてくるものだということをご認識いただければと思います。

法人成りのデメリット

法人成りすることである程度のデメリットも存在します。住民税の均等割りや社会保険の強制加入はすでに解説した通りですが、それ以外にも経理の手間が増えるといったことなども挙げられます。経理の手間に関して言えば税理士に頼めば解決しますが、一般的に個人事業主と法人では税理士報酬も異なってくる場合が多いため注意が必要です。
それ以外に発生する費用としては法人設立時に司法書士に依頼した場合、株式会社であれば30万円ほど、合同会社であれば15万円ほどの設立費用が発生します。

簡単に辞められない

いずれのデメリットも費用や手間といった部分に集約されますが、最大のデメリットは簡単に法人をたためないという点にあるのかもしれないと個人的には考えます。

事業を始めた以上自分が亡くなるまでずっと継続し、次世代へ引き継いで行きたいと考えることは極めて真っ当な考え方です。しかし、多様化が進む現代において自身のポジションや業界の変化・各種メディア・ツールの革新はそのスピードを増すばかりではないでしょうか。
当然そのスピードについて行けなければ事業をたたむか、縮小することになってしまうわけですが、そう簡単に個人事業主に戻ることは出来ません。

借入・補助金、助成金の交付状況・リース契約・取引先との関係など法人から個人へ戻る際には様々な事柄に留意する必要性が存在します。また、会社を清算・解散させる際にも費用は発生しますので合わせて注意したいところです。

今回のまとめ

法人化のタイミング、メリット・デメリットについて解説させていただきました。デメリットの項目でも申し上げましたが、変化の速い時代において法人を続けていくということは非常に大変です。

もっとも、それは個人事業にも言えることではありますが、法人と比較した場合個人は身軽であるのに対し、法人は何を行うにも費用と手間がかかるということは事実です。ご自身のライフプランや事業の将来性を考慮し、納得した上で法人成りをするか否かを決めて行っていただければと思います。
もちろん、私にご相談頂ければ詳細にシミュレーションを行い、どのような選択があなたにとってベストとなるのかお答えいたします。後悔の無い選択をお手伝いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

税理士法人内山会計 公認会計士・税理士 内山典弘

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